【医業経営ニュース】Vol.105「2026年度診療報酬改定 検討状況レポート2 救急医療について(その1)」
2025年7月3日に開催された第6回入院・外来医療等の調査・評価分科会のなかで、救急医療について議論されました。
■初期診療後の救急患者の転院搬送に対する評価の背景
過去20年における救急自動車による救急出動件数及び搬送人員の推移は、増加の一途を辿っています。年齢区分別の搬送人員と構成比の5年ごとの推移をみると、高齢者の搬送人員、構成比が増加しています。
出典:総務省消防庁「令和6年中の救急出動件数等(速報値)」(令和7年3月28日)※赤枠は引用時に付記
また、傷病程度別の搬送人員と構成比の5年ごとの推移をみると、軽症(外来診療)の構成比は減少していますが、全体の搬送人員は増加しており、中等症(入院診療)は搬送人員、構成比ともに増加していることが分かります。
出典:総務省消防庁「令和6年中の救急出動件数等(速報値)」(令和7年3月28日)
高齢者の搬送人員が増加したことで、入院が必要な中等症が増加したものと推察されます。また、傷病程度別に搬送人員の平均所要時間を見たところ、車内収容~現発の時間が他に比べて軽症、中等症では長い傾向がありました。これは、受入医療機関の選定困難によるものとなっており、その原因の一つに「ベッド満床」が挙げられています。その背景として、救急医療機関に搬入された患者が救急医療用の病床を長期間使用することで、新たな救急患者の受入が困難となっていることがあります。そこで、2024年度診療報酬改定において、三次救急医療機関等におけるベッド満床の解消促進を評価する「救急患者連携搬送料」が新設されました。
出典:中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織(入院医療等の調査・評価分科会) 令和7年度第7回入院・外来等の調査・評価分科会 資料 入―3
■救急患者連携搬送料算定状況
救急患者連携搬送料の届出医療機関数は、2024年7月は224件、2025年5月では387件で、1.7倍増加しています。算定回数は「入院中の患者以外の患者の場合」が最も多く669件、「入院2日目の患者の場合」が228件でした。
出典:中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織(入院医療等の調査・評価分科会) 令和7年度第7回入院・外来等の調査・評価分科会 資料 入―3
届出医療機関数は増加してはいるものの、高度救命救急センター、救命救急センター及び二次救急医療機関(計1,063件)のうち、救急患者連携搬送料を届出ている医療機関は17%にとどまっています。その理由として、「搬送に同乗するスタッフが確保できないため」「自院又は連携先医療機関が救急自動車を保有していないため」「「地域のメディカルコントロール協議会等と協議を行った上で、候補となる保険医療機関のリスト」を作成するという要件の達成が困難であるため」が多いものでした。二次救急医療機関では「救急用の自動車又は救急医療用ヘリコプターによる救急搬送件数が、年間で2,000件未満であるため」というのが突出して多い要因でした。
出典:令和6年度入院・外来医療等における実態調査(施設調査票(A票))
そのような中、2024年10月1か月に救急患者連携搬送料を算定した患者は以下のとおりでした。算定した患者の搬送理由として、「処置・手術等を必要としないが、急性疾患に対する治療を必要とする状況であった」患者が最も多かったことが分かりました。
出典:令和6年度入院・外来医療等における実態調査(施設調査票(A票・B票))
処置・手術等を必要としないが、急性疾患に対する治療を必要とする状況である場合、三次救急医療機関等から速やかに患者を搬送できることが望まれますが、搬送するための車両の確保が課題の一つとなっていることが先のデータからわかっています。
そこで、総務省消防庁の「救急業務のあり方に関する検討会」では、増加する救急需要への対策に関する検討の中で、転院搬送等での病院救急車や患者等搬送事業者の活用を挙げており、地域の実情に応じて患者等搬送事業者を活用する体制の整備が望まれています。
搬送体制の整備に加え、搬送時の人員の確保等の課題も残ります。救急搬送患者数が更に増加する可能性があるため、今後救急医療についての議論は活発になるものと考えます。どのような議論がなされていくのか、引き続き注目が必要です。